黒木和雄のPR映画の手法

映画美学校の公開講義を受けた。黒木和雄のPR映画の時代というのは、金があったんだなあーとびっくりした。
「海壁」では、水中カメラ、空撮をこれでもかという具合である。模型に直接チョークで書き込んで、工程をおおざっぱに説明してしまうあたりが、時代を感じさせる。後は、今でも通用する画質(35ミリ)と空撮と水中カメラ、崖の爆破シーンなど、実に細やかに、実に劇的に火力発電所の工事を描いていた。
「恋の羊は海いっぱい」では、ミュージカル仕立てのシーンではカラフルな全身タイツのダンサーがくるくると回転しているカットと織物が織られていくところを構成主義的に見せていく。高速で糸が通過していくショットや、織物の柄への素早いズームインなど、すぐれたカットが多かった。
「わが愛北海道」では、空撮を多用しながら北海道の風景を見せていく。(後の、「飛べない沈黙」と似たような白樺の林の風景もでてきた)アランレネの「24時間の情事」のように、女性と風土(広島のようなもの)を重ねて語っている。車からの移動ショットや、撮影当時の北海道の風景が美しい。
「10ドル旅行」これは、松川八洲雄監督の脚本で、おちゃらけたトヨタのPR映画であった。アメリカの少女がでてきて、日本を縦断していく。(この女が縦断するというモチーフが多い気がするが?)
「あるマラソンランナーの記録」
PR映画で人間を描くということのタブーへの挑戦、フィルムの端尺を集めてまでして映画を完成してきた。富士フイルムがスポンサーで東京オリンピックの選手を記録することを依頼された。スポンサーを押し切っての製作は、クライアントのいくつかの要求を与しながらも、完成した。終盤の君原選手の走っている時の呼吸と顔のクローズアップによって、マラソンというスポーツを強く印象づけた。
「僕のいる街」
この作品は、昭和天皇が崩御した時に皇居前、銀座の街を撮影している。戦時下の銀座の写真をカメラの動きで実に生き生きと描く。現在の銀座の風景は時が止まったかのように、凍り付いてしまったかのように描いている。「僕は、あの日あそこにぶら下がっていた」というナレーションが、被災した廃墟の写真のなかの電線にぶらさがった傘にカメラはズームしてく。言葉と映像とが鮮やかに編集されている。なぜ、銀座を壊したアメリカを日本は受け入れているのかという怒りのナレーションが入る。

黒木監督のPR映画の「海壁」にしても、「わが愛北海道」にしても、ナレーションが映画の基調としてしっかりとある。劇映画の中では、モノローグによって「飛べない沈黙」「日本の悪霊」では絶妙なモンタージュを形成していた。
「日本の悪霊」は偶然、うり二つのヤクザと刑事(同じ俳優)が出くわし、ヤクザの妻と(妻も他人とは知らずに)寝た間抜けな刑事を脅して、刑事になりすますというところからこの物語が始まる。そして、ヤクザが自分が学生時代に起した殺人事件について調べ始めうる。学生時代に、殺人事件を指揮し、自分も信じ込んだ主犯の男はどうしたのか・・結局は、今では廃人のようになっていた。
この映画の公開当時、学生運動が下火になってきて、あの熱中した時代は何だったのかという気運が高まっていたようで、学生たちに熱狂的に支持された映画だそうだ。自分が関わった事件が何であったのかにこだわるヤクザに、当時の学生は自分を重ねたのだろう。途中から、刑事とヤクザがどちらが登場しているのかわからなくなるような構成になっている。その誰なのかがあやふやなまま女と寝るシーンがある、女は「あんは、あんただよ。あんたが100人いたら、うれしいな、100人全員愛しちゃう。」とおかしなことをいう。もう、過去が何であるか、自分が何であるかなど解決が付かなくなっていく。そして、最後にカメラの前に(同じ役者だが、)刑事とヤクザが現れ(特撮で同じ俳優が二人出てくる)、ふたりで刀をもって全裸で突進していく。
結局、この最後にこの映画は映画の虚構性そのものをぶち壊したかったのかーと感じた。学生闘争という物語の虚構性ともいえると思う。虚構性を壊すだけなら、簡単なことだが、どう壊すかということに苦心したことだろう。

全編通して毒の効いた、かの有名なフォクシンガー岡林信康の唄がはさまれる。この映画に登場してくる岡林をみていると、社会のブルジョアジーを非難して唄い、最後には学生運動の虚構性すらも茶化す曲をうたっていたことに驚く。この、岡林の唄を差し挟むことで、次第に映画自体に隙間ができてくる。観客は次第に、岡林が唄う時代の空気感を感じる、次第に映画の虚構性の崩壊を許容していくのだと思う。岡林という人物がもつ、映画の虚構からはみ出てしまう時代の臭いに映画は支えられ、最後に映画の虚構という呪縛を壊すのだろう。
ゴダールの「ワンプラス・ワン」を途中までしか観てないが、近しい印象を持たせた。

最後の「私たちの望むものは」という曲は、いい曲だ。。

 
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by barubuhutatabi | 2006-10-28 10:53 | 映画


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